三角野郎という言葉はあっても六角野郎という言葉は無い。単に今回はHEXレンチの話なので書いただけ(笑。敢えて書くと,「三角野郎」とは,三角というのは多角形の中で一番角が尖っていることから,誰に対しても角(かど)をたててトラブルを起こす男性という意味もあり,「義理を欠く」「人情を欠く」「恥を掻く」の三つの「かく」(つまり三角)を持った最低人間という意味もある。つまり,義理人情を欠いた尖ったヤツは本当に最低人間で,まさにこれが六角野郎?ってことだな。六角だとあまり尖っていないが(笑。
INBUSとALLEN
INBUS,ALLENというネームが何を示しているのか推測出来る人は相当な語学知識のある人だと思う。この写真だけなら,ある程度の工具マニアならアレンの名を見て,単なる工具ブランドだろ?と思うはずだ。さらに,UNBRAKOとBURUGOLAというネームを加えたらどうだろう?推測として六角穴ボルト(以下HEXボルトと称す)のメーカーかな?と思うのだろうか。しかし,それは当たっているようで外れている。実は,これらの名はすべてHEXボルトやHEXレンチの俗称なのだ。工具の世界で,今やギヤードレンチがすべてギヤレンチと呼ばれてしまうように,それと同じようなことが過去にも起こっていて,それが今でも固有の地域などで工具名称として残っている。言うまでもないが,この写真の物は工具ブランドとしてのネームだ。
HEXボルトは1910(明治43)年アメリカのコネチカット州ハートフォードのウィリアム・G・アレンが特許を取得したのが元祖というのは常識?だが,その後,1920年代にUNBRAKOがHEXボルトを開発。1926(大正15)年イタリアのHEXボルト元祖のBURUGOLAが操業。1936(昭和11)年にドイツでBauer und SchaurteがHEXボルトの特許を取得。というように世界の各所でほぼ同時期にHEXボルトが造られている。その頃は特許とはいえ,自国内だけの事だろうから類似特許が各国で独自にまかり通っていたことは想像に難くない。その結果HEXの代名詞として名称が残ってしまったのだろう。現在では固有ブランド名称は敢えてTMや®を付けて俗称の名と混同しないようにしているようである。
英語圏ではALLEN。ドイツやオランダではINBUS。デンマーク辺りではUNBRAKOがHEXの呼び名として定着している。試しにグーグルの翻訳でこの言葉を入れてみるといい。デンマーク語でUNBRAKOと入れて英訳するとALLENと出るし,デンマークの工具ネット通販ページなどを見てもHEXという意味で使われている。さらに,英語でALLEN KEYと入れて独訳するとINBUSSCHLÜSSELと出る。即ちINBUSである。イタリア語でBURUGOLAと入れ,英訳すると…?予想通りALLEN(笑。ちゃんとグーグル先生は判断しているのだ。ちなみに,INBUSとはInnensechskantschraube Bauer und Schaurte(Bauerと SchaurteのHEXスクリュー)の頭文字である。しかし,グーグル先生にINBUSと入力しようとすると,INBUと打ったところで「陰部かゆみ」とか,「陰部腫れた」とかいう言葉の候補が次々と出てしまうのは苦笑モノだが(笑。
これがINBUS®のINBUS?
しかし,これは言うまでもなくブランドとしてのINBUSだ。ドイツあたりでもこのネームをブランドとして使う場合は登録商標の®をつけて表記し,一般的なHEXの意味として使う場合はそのまま使って区別しているようだ。この製品はINBUSブランドだが,製造元はHaFuで,HaFuの414というモデルと同じ物。実は,ネットでHaFuブランドの物を注文したつもりだったが(画像もHaFuだったのだが…)送られて来た製品はINBUSブランドの物だったのである(苦笑。まぁ,HaFuのメーカーページも登録商標としてのINBUSというネームが掲載されているので,メーカーからすれば関係ないのかもしれない。しかし,HaFuのページではドイツ語版がINBUS表示。英語版にするとHexagonという表示に変わる。もしかしたらHaFuのHEXレンチはドイツ国内がINBUSで,国外がHaFuというブランドで販売しているのだろうか?と思って調べてみたら,何のことはない。INBUSの商標だが,現在は破綻買収が繰り返されたBauer und Schaurteを受け継いだインドのRUIAグループ傘下であるRuia Global Fasteners AGという会社が所有しており,HaFuが独占使用権を持っているようである。蛇足だが,このHaFuは隠れた一流メーカーで,ハゼットのドイツ製HEXレンチ製造元だということは,工具マニアには周知の事実?だろう。ちなみに,Bauer und Schaurteは破綻買収が繰り返されたときに会社名が消滅している。
こちらはALLENTMのALLEN(笑。
言うまでもなく,本当にアレンキーと呼べるHEXレンチはアレン製だけだ。これを買った当時はすべてアメリカ製だったアレンもその後,アームストロングのセカンドブランドに成り下がり,殆どの製品ががチャイナ製になってしまった。しかし,現在ではチャイナ製になった一般的な工具のラインナップをやめて原点回帰?ともいえるHEXレンチに特化したブランドになったようで,半分くらいはアメリカ製に戻っているようだ。これはAPEXツールグループのブランド再編と言うべきもので,アメリカ製だったアレンブランドの一般工具製品はアームストロングブランドに換わり,台湾やチャイナ製だった物はギヤレンチブランドに換わり販売されているようである。蛇足だが,かつてダナハー傘下になった頃K-D/ALLENとして販売されたこともあった自動車用SSTメーカーのK-Dも2014年7月からギヤレンチブランドに吸収され,K-Dというブランドは残念ながら消滅したようである。
旧ロゴのアレン
アレンは元々は単独メーカーだったが,1987年3月,その前年すでにダナハー傘下になっていたHEXスクリューの製造元であるHOLO-KROMEに吸収されて,会社名はHOLO-KROME/ALLENになった。その後,ダナハーツールグループになった時アレンは単独ブランドに戻り,グリーンのパッケージにある現行ロゴになった。この赤いパッケージの左上のロゴが単独メーカー時代から続く旧ロゴで,右下のロゴがHOLO-KROME/ALLENのブランドロゴである。ちなみに,ホロクロームは2010年にFastenalに吸収され、現在はダナハー傘下ではなくなっている。上記でHEXボルトは1910(明治43)年にアメリカのコネチカット州ハートフォードのウィリアム・G・アレンが特許を取得したのが元祖と書いたが,そのアレン発祥の地が右下に書いてある所在地なのは言うまでもない。